夜 消える夜
木立 悟








風が入り込み
這いまわり
出てゆくたび
ひとりになる


夜の地に立つ夜の洞
夜を二重に夜にする音
雨は洞を抜け別の夜へゆき
音だけがこちらに残される


波間に浮かぶ鬼の顔
幼い王は水底に棲む
数億回問い 数億回答え
舟は舟着き場に沈みゆく


葉の上に陽をひろげ
死と共に食べるとき
人の無い街はわずかに震え
鳥を影だけ残し消してゆく


世界には重すぎる重荷があり
誰も除けぬまま沈みつづける
つくりものの街がひと息で吹き飛び
もう其処を知る者は無くなる


書きかけの地図の先にも雨は降り雪になり
不明は不明のままつづきゆく
居ないものが手を振っている
緑の斜面をおりてくる


空に近い場所に在る白と黒の家
霧と共に降る鈴の音
羽でできた歯車の音
積もり積もり積もり溢れる


がらくたの奥に埋もれた鏡に
ちらちらと歪み 映る夜から
風が吹き 腕をすり抜け
幽かに明るい径に消える




























自由詩 夜 消える夜 Copyright 木立 悟 2023-07-17 22:33:29
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