雨の街と夜
木立 悟







夜をのぞき込む夜が
少しだけ喉を痛くする
壁の虫はどこへゆくのか
おまえはおまえの夜をゆくのか


朝に張り付いた昨日の雨が
陽に刺されては落ちてくる
ひとつの爪弾きが伝わりつづけ
小さく小さく曇を分けゆく


風に撒かれる光の針が
午後の音を消してゆく
庭の奥の 陽の届かぬ場所の
小さな音を見つめている


縦のオーロラ
流民の地図
偽の美しさの迷路から
誰も出て来ぬまま日が暮れる


評価されぬものほど興味深く
時の垣根を越えてゆく
どこにでもある青と白
同じもののない青と白


苔むした岩の門を
雪のかけらが過ぎてゆく
かつて流れたものの記憶が
崖の斜面に刻まれている


枯れ木が枯れ木のまま伸びはじめ
未明の星を掴もうとする
枯れ木の下に重なり倒れる
人のかたちをした時計たち


ふたつの夢の
片方を忘れ
思い出そうと
すべてを忘れ


午後の光はうなじの氷
短い息と夢のあつまり
壁から壁へと馳せる虹が
雨が来る雨が来ると歌い撒く


なまあたたかい夜の波
鉄の花さえ冷やせずに
電球のなかの鈴と蝶
打ち寄せる音に浸されてゆく

























自由詩 雨の街と夜 Copyright 木立 悟 2023-07-17 22:31:13
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