チーズケーキとリルケ
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 真夜中に点灯した冷蔵庫の奥であらゆる向きに齧られたチー
 ズケーキが発見された\反射的にわたしもかじりつき\素早
 く体温を加え咀嚼を開始\ねっとりうっとり\うまれるチー
 ズケーキのかがやきが暗闇を浮かびあがらせ\大量の唾液を
 分泌する舌を無垢な天使に変えたのだ\又氷山を溶かす海が
 聞こえ\まだ蕾だからこそ嗅ぎ分けられる芳香があり\まだ
 酔余だから感じられない雑味もあって\一度も壊れないが\
 ことばを持つにも至らない\ふるぼけた冷蔵庫にも\たまに
 こういう意外な余禄にありつけるのが深酒の興味深いところ
 と言えなくもないが\次に目ざめたら手水に立てこもること
 になるかも知れないなと

  その辺に伏せたリルケを読んで備える
  まずまず人への想いは肉のしもべだが
  少なくともリルケなどを読んでいれば
  想像する力があらゆる困難を超克できるのだと
  冗句を独りごち
  あらゆる困難の超克ってなんだと嗤う

  ボトルの残量確認
  午前三時十八分
  浅い眠りをくり返す

 薄い壁ごしに隣人がまた何か大声で喚いている\それはやが
 て怒りを帯びた咆哮で理性を遡り\時おり謎の高笑いも加え
 る調べは常に一定の法則に生きる人間が最終的な勝者になる
 と確信している響き\つまり彼のように一歩も家を出ない生
 活者が\真夜中にこっそりあまい色した食べかけの糧を\孤
 独な隣人に配っているのかも知れない\薄い壁にだけあらわ
 れる天使さま\どんな扉もひらく合鍵を作れて\冷蔵庫の背
 後に貫通させた隠し通路から\都会のくらやみに流れついた
 氷山の一角\それはチーズケーキ\今わたしのおなかの中で
 細かい雨を降らせる

  ここから星はひとつも見えないが
  屋根をうち破り汚染をつき抜け電離にとび込めば
  満天の銀河に
  きっとつつまれる
  リルケは再び脇に伏せ
  外した眼鏡を探さなくては





自由詩 チーズケーキとリルケ Copyright soft_machine 2023-07-08 12:44:02
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