三面鏡
リリー

 会社の大会議場のお客様控室に
 ちょっとアンティークなドレッサーがある
 清掃に入ると鏡を拭くついでに
 ヘアスタイルを確認したりしてしまう

 くもりない三面鏡が私を映す

 一面に すまし顔の天使と
 正面にいる小悪魔とが
 腕をくんで
 大宇宙をさんぽする

 「このふたりには、ながれぼしをおくりましょう。」
 「へ、いや。稲妻のほうがいい。」
 まったく
 私の天使を征服しようとする小悪魔め!

 だけど 正面に映る小悪魔こそが生身の女
 心臓を一突きする鋭利な刃を貴方へ向ける
 私が貴方の流血で真っ赤に染まる事を
 解っていて

 だから、
 手をつなぐだけでも抱き合うこと
 という 貴方の優しい微笑みの前に
 天使でいようとするのに

 おろかしいわよ、といって小悪魔は嘲笑う
 醜い情欲に肉塊の炎を充し得る暁を迎えたいとのぞむ
 貴方故に それを願えども満たされず
 乾く性の困惑
 自責の辛さに 閉じる三面鏡

 そういえば
 鏡に もう一面あった
 そこにも、私が映っていたはずだけれど


自由詩 三面鏡 Copyright リリー 2023-07-05 14:19:47
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