お魚くわえない猫
AB(なかほど)

我が家では

いただきますの後
ニャー と号く

あの日から
そうしてる



魚屋さんには夕陽がさす。それは、雨が降っ
ていても、モールの中でもかまわずに。その
匂いの中に射してくるのだ。と俯いたり。

それじゃ、見えるものも見えなくなってしま
うっ て、そう言ってた君を思い出しては、
明日のほうへ顔を向けたり。


明日は
来るのだろうか


いつもの夕陽が優しすぎるから、明日は来る
のだろうか。君の夕陽は、そして、君の明日
は。あいかわらずの僕は、俯いたり、顔あげ
たりの魚屋さんで。






我が家では、いただきますの後、ニャーと号
く。あの日からそうしてる。ただいまもおか
えりも言わない、君がないた日から。


おやすみの後
おはようの後
お茶の一服の後
ニャー と号く


ごちそうさまの後
ニャー と号く



君がないた日から、我が家は少しずつ、少し
ずつ穏やかになって、それが夢見てた世界で
はなくても、我が家の幸せなのだろう。




あの町にもやがて、君と同じ声の、ただいま
も、おかえりも言わずなく子が玄関や軒先に
現れて、そんな風におだやかな、


朝に、昼に、夜に

ニャー 
  って号く家族が増えてゆけばいい


少しずつ、少しずつでいい。穏やかであくび
が出てしまうぐらいでいい。おかずはおかか
でいい。いなくなってもないている。いなく
なったわけじゃないよ って。




どこかおしゃれな店舗で売れ残ってしまった
ネコ用の缶を、少しさびれた街角の100円
ショップの棚に並べる。並べ終えたら案外、
それなりにかわいらしい一角になっている。
あまり目にしない柄の缶を手にとる人の家に
は、けっこうなんでも受け入れる猫がいるの
だろう。うちの子もそうだった。

たぶん、そうだった。
いくつも受け入れてくれて、そのまま。




なんてことない味噌汁の味で泣いてしまうよ
うに。ひと並のくしゃみの後に、しょっぱい
ってないている。味噌汁の塩分は、はなみず
となみだと同じ濃度だよ って。



我が家では

いただきますの後
ニャー と号く


あの日から
そうしてる






自由詩 お魚くわえない猫 Copyright AB(なかほど) 2023-06-28 21:06:08
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