小旅行にて
短角牛

誰にも故郷があって

それが心の拠り所と呼べるものでなくても

またその地を踏んでみれば 何か思うものがあって


私はなぜだか 駅に降りたら涙が込み上げてきた

帰ってこれたことが なんとなく嬉しくなった

親しい友はここにいないけれど それでも

道が 店が 街路樹が 一歩だけ親しかった


孤独だったかもしれないけど 思い出も蘇った

なんてことはない コンビニで甘いパンを買ったこととか そんなものだ

でも それは私を支えていた 大事な時間だった


近頃は 思い出と呼ぶべきものを捨てる作業ばかりだったから

捨てなくて良い思い出 漂う記憶 そのやさしさに

私は鼻歌で応えていた 昨日よもう一度


だからなんだという話 私のしがない小旅行

懐かしさが切ないのは ドルチェ&ガッバーナの香水のせいではないはずさ

誰そ彼のヒグラシ 5時にはトオキヤマニヒハオチテ

子供も帰った公園 開いた隣家の窓 揺れるカーテン

そうだね 昔もそんなものばかりを見て きれいだなって思ってた

良いも悪いも 行くも行かぬも 私 そうやって生きていたんだった


その輪郭を抱きしめて ようやく出てきた帰郷の挨拶は

夜風に消えていった




自由詩 小旅行にて Copyright 短角牛 2023-06-19 20:45:33
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