加藤さんにインタビュー
たもつ
加藤さんが五大大会三連覇を達成する
という快挙を成し遂げた
まだ梅雨は明けきらず
朝からの小雨で唸るような湿気の中
お風呂をはじめとする各箇所のカビ取りは
一向に捗らないが
せっかくなので本紙は加藤さんに
単独インタビューすることとなった
待ち合わせ場所に来た加藤さんは
開口一番、加藤です、と自己紹介をし
カビ取りがね、と付け加えた
インタビューの場所まで移動する途中も
加藤さんはぶつぶつと、カビ取りがね、
と言い続けていて
少しでも距離を詰めるなら
こちらも同調して
いやあ私もなどと言えば、
今後のインタビューも話が弾んだだろうに
緩くなった靴紐のことばかりが気にかかり
ほかにうつ手などなかった
先ずはお写真を、と言ったが
写真はNGなんです、というところから
インタビューは始まる
普通の顔なので、と加藤さんは続けた
普通の顔、いいじゃないですか
というこちらの言い方が気に入らなかったのか
ムッとした顔で駄洒落のようなことを言って
ひきつったように笑う
残念なことに
レコーダーでも拾いきれない程の小声だったので
このまま放っておくか
それとも面白くこちらでそれっぽく書くかは
後で決めても良いような気がした
以下、五大大会三連覇なんて快挙が
どうしたら可能なんですか
という雑な質問に対する加藤さんの発言になる
なお、加藤さんの試合のスタイルは
「戦う戦闘機」という異名を持つほどに
攻撃的であるということをここに附記しておく
以下、五大大会三連覇なんて快挙が
どうしたら可能なんですか
という雑な質問に対する加藤さんの発言になる
先ずは心構えが重要です
己に勝つ、と言う人がいますが
あれは嘘っぱちです
己に勝つ、ということは、
己が負けるということ
負けるために試合会場に行くわけではないのです
ご存知のとおり相手は複数人いますから
コ( )ス、全員コ( )ス
くらいの気構えがないといけません
もちろん誰もコ( )シたことはありません
それは私の誇りです
そういう試合でも無いですし
次にラケットを左手でしっかりと握り
それから置きます
私は左利きなので多少有利かもしれませんね
あまりいないですし、対応がね
ラケットを置くのですが、置く位置が重要で
それで勝敗が決すると言っても過言ではありません
最近はサイン盗みが流行していて
乱数表を使って微妙に位置を変えます。
(その位置は
(勝敗のどれくらいのウェイトを占めるのですか
(という問に間髪入れず
5パーセント
(それってどれくらい重要なのですか、
(という更問に
5パーセント
それより、あなたメモ取ってるの?
これ、とっても大事なところですよ
(このレコーダーで録音しています
そう、それで中盤は飛ばして
フィニッシュがとても重要
それで勝敗が決すると言っても過言ではありません
(それさっきも聞いた気が
5パーセント
5パーセント
普通の人はバン、バン、ドン、ドンのリズムだけど
私は、バンドン
(文字起こしをするとバンドンだが
(実際の音声では
(どこか異国の言葉のような発音
(ちなみにウルトラセブンの最終回二話に
(パンドンという怪獣が御出演されていたが
(それはまた別の話
外は小雨が降り続いている
湿る空気の中
カビは今頃どうしているのだろう
一向に捗らないカビ取りは
最後に残された言い訳のように思えた
加藤さん、最後に写真を一枚
写真はNGと言ったでしょ、それよりカビが
私もカビが
私がそう言うと加藤さんは
はにかんだように微笑んで
利き手の左手で小さくピースをしてくれた
加藤さんの下の名前は
後日メールで送ってもらうことになった