ひぐらし
リリー

 庁舎の旧館は通風が悪い
 配席の奥まっている課長のデスクまで
 冷気は届かないから
 窓を 通常開けておきます

 出張先からまだ還らない課長に
 明日午後の会議の資料を机上へ置きに来ただけで
 窓の外 うっそうと茂る木立見上げると
 高いところの西陽があかるい

 なぜかこの時
 貴方のことがオレンジがかって
 胸に 溢れてきたのです
 いつから連絡をくれなくなったのか
 それすら忘れてしまったのに

 あの日山中温泉のゆげ街道で
 貴方も聞いた
 ひぐらしはもっと
 もの柔らかな響きを聞かせてくれました

 いつから二人は連絡を取らなくなったのか
 それすらも
 忘れてしまったからこそ、
 憶い出せたのかもしれません

 キキキキ とも硬く聞こえた
 ひぐらしの鳴き声が
 冷やかな様で美しかった



自由詩 ひぐらし Copyright リリー 2023-06-09 09:32:15
notebook Home 戻る