こんな世界の片隅で
室町

世界の片隅で
しがない男がひとり日本や世界を
憂いている
バイデンがどうした
プーチンがどうした
岸田はけしからん
そうして
台所に一人立っては
食材の値上がりを嘆息する
人から見れば気狂いに
映るだろう
おまえの一年分の食費を
わずかの間に
チップのごとく使う者たちの非道を
罵ったとしても
皿の上の鰯(いわし)が
真っ赤なマグロの切り身になるわけでもない
男はマグロの切り身よりも
鰯の煮付けが好きなのだから
もとより何を望んでいるわけでもない
だれも耳もかさないのに
何も変わりはしないのに
どうして日本や世界の行き先を
案じるのだ
貧相な男は
貧しい夕餉を終えると
世界の果てのような
静かな部屋で
やっぱり
腕を組んで
日本や世界の行く末を
心配している
でも
ほんとうはわかっているのだ
名も知らない近所の
粗末なアパートの窓から
外を眺めていたどこかの主婦の
不安そうな眼
そのささやかな生活と命が
男に
何かを語らせていることを




自由詩 こんな世界の片隅で Copyright 室町 2023-06-07 07:46:49
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