ニュータウン[まち角3]
リリー

 
 仮設足場組立工事が始まると 
 いつの間にか ダークグレーな防音シートは 
 しのつく雨に暗く、まるで
 封建制度の時代にたてられた牢獄の様に
 そびえていた

 からだのモヨウが赤と白の網目麒麟が二頭 
 動かぬまま
 それぞれ別方向へ視線を向けている

 もう あれから一年半も経つのかと、不意に
 私は初秋の夜を思い出す

 あの日は月光に星が掻き消され
 私の部屋から 向かいに建つマンションの
 すっかり消えた窓灯りを一人ながめていた

 霧なのか、分からない雲が陸屋根にかかっていて
 高層の三階に居ると五階のベランダの側にも
 薄く白っぽい、かたち有るものが流れる 
 それは
 かつて県内ただ一つの百貨店だったショッピングセンターの
 屋上にもかかって見えた

 屋上には シートで包まれた巨大なネオン管看板
 幼い頃から親しんだそれも、
 解体工事を待つだけとなり撤去される
 
 樹々はねむり 
 虫の音ばかり沁みてきて
 形状を変え流れゆくものの
 はやさばかり、目が追って
 満月でもないあの月は真っ白いだけで
 私に 背中を向けていた

 目覚まし時計のアラームが鳴るまで 四時間しか無くて
 サッシとの滑り悪くなっている網戸を閉めると
 擦れて歪な音が夜気に響いた

 湖岸道路の信号機の音が 私を
 あてどない想いから現在へ引き戻す
 
 建設地一帯を囲う目隠しフェンスに貼られた宣伝広告では
 京滋エリア史上最大 
 七百八邸の新築分譲マンション
 十五階建ての七階部分まで工事が進んでいる
 此処に間もなく、新たなビッグタウンが
 産声を上げるのだ

 


自由詩 ニュータウン[まち角3] Copyright リリー 2023-06-03 16:00:16
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