蛙の王様
リリー
会社の敷地内にある貯水池に
六月の雨が
ひたすらに降る
ヨシが競いあって緑茂らせ
水中は水草の藻やアオコで光も遮断された
濁った水面に 呑みこまれていく雨の音
空もなく 彼方もない騒がしい雨の
瞬間の消滅の連続
白々と
砕けながら散り
散りながら吹き上がって消え
次から次へと消える
六月の雨よ
今 鳴いていないカレは何処からか
ここに立つ私を見つけているだろうか?
今年の桜は早く咲き足早に巡る季節の初夏から
カレの婚活が始まった
昼間っから
低い声響かせてブォーン ブォーン
一度すがた見てみたいものだ
と、池の周囲に設けられた埒から覗く私は何度か思った
そんな朝 一度きり
鳴き声のする辺りへ視線投げると蛙の顔が、
こちらを向いていた
水草の塊がそう見えている錯覚ではなく
私を見ている蛙の目と
見つめ合った
なぜ、カレは牛蛙で
私は人間なのか?
カップリングパーティーならば自己紹介の始まるムードだった
草陰から雨に打たれるカレの透明な明るい目には滴
こんな日も
空からの恵みだと見上げているのだろうか