歩道橋のはなし
たもつ

町の外れに歩道橋ができた
町道の行き止まりのあたりで
民家はほとんどなく
小さい子供がいる地域でもない
町長の公約だから
それだけでできた歩道橋だった
町長は毎朝早くから
歩道橋の掃除をして
手すりを磨くなどしていた
町議会では何度か
その必要性について取り上げられ
税金の無駄遣いだとする
ビラが配られたりもした
その間も町長は寡黙に
歩道橋の掃除を続けるだけだった
ある年、町にちょっとした災害があり
その時に初めて歩道橋が役に立った
地方紙の片隅にその記事が小さく載って
翌日には既に忘れられていた
町長に悪性の腫瘍が見つかり
次回の選挙では出馬しないことが表明された
そして隣町との合併と
歩道橋の撤去を公約に掲げた候補者が
新しい町長となった
モニュメントとして残そうとする動きもあったが
公約で設置された歩道橋は
公約どおりに撤去された
人口動態調査では
毎月、町の人口は減り続けていた
前市長もある月のマイナス1名として
その数字の中にあった
数年の準備期間を経て
隣町との合併が果たされた
そういえば、昔、歩道橋が
公園で立ち話をしていた人が
そこまで言いかけたけれど
子供たちの笑い声に気を取られて
すべてそれっきりだった



自由詩 歩道橋のはなし Copyright たもつ 2023-05-16 17:47:17
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