葵橋。
田中宏輔


真夜中、夜の川
川面に突き出た瀬岩を
かわしかわしながら
ぼくの死体が流れていく
足裏をくすぐる魚たち
手に、肩に、脇に、背に、尻に
触れては離れ、触れては離れていく
この川に流れるものたち
朽ち木につつかれて、枯れ葉を追い
つぎからつぎに石橋の下を潜り抜けていく
冷たくなったぼくの死体よ
木の切れ端に、枯れ草、枯れ葉が
水屑みくずに、あくたに、もつれほつれしながら、流れていく
冷たくなったぼくの死体が、流れていく
ぼくの死体よ
絶え間なく流れる水
岸辺に、瀬に、さえずる水の流れ
うねくねりしながら
月の光をひるがえし、星の光をひるがえし
流れに流れていく、水の流れ
水面に繫がれたさまざまな光の点綴てんてつ
ぼくの目をろうしながら流れていく
水面になびく、窓明かり、軒灯り、街灯の
滲み煌く輝き、ほくる眺め
揺蕩たゆたう、映し身
ぼくの死体よ
冷たくなったぼくの死体よ
おまえを追って
いまひとり

ぼくはまた葵橋の上から身を投げた






 


自由詩 葵橋。 Copyright 田中宏輔 2023-05-08 00:26:23縦
notebook Home 戻る