楊貴妃桜
リリー

 泉涌寺の
 楊貴妃観音
 のお堂の前に
 春の日が暮れて

 ほのぼのと薄く紅
 開きそめて囁く枝の
 下に 微かな響き伝え
 息づいている空気が在る

 遠い春雷の 音ない震えか
 楊貴妃桜の散りゆく今、私の
 胸の奥深くに鳴っている 何か

 その何かが、やがて噴き出そうと
 する熱いどよめきは明日への希いか
 無我夢中のうちに自分の姿を見失う幻
 かもしれないのに 蒼いのか 赤いのか
 色すらも分からなくなって唯泣いてしまう
 かも しれないのに、それでもいいのだろう

 そう 思う私のつぶやきを反響させて紅は揺れ
 うごく光源に楊貴妃観音像のお顔が重なってくる
 しっとりとした笑みを私に浮かべてくれていたのだ



自由詩 楊貴妃桜 Copyright リリー 2023-05-04 14:51:58
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