朝の月
リリー

 会社では広大な敷地内を 車と自転車が往来する。
 歩行者には「さわやかあいさつ通り」と名称される
 アーケードの歩道が設けられている。

 東の正門で守衛室に社員証を提示しても
 配属先の建屋へ向かう道は 延々と続く。
 ある朝
 西門を出て第十一工場に張られた金網沿いの高い並木、
 アスファルトの舗道を行く。
 ゆるやかな坂をのぼり勤務地の研究所へたどり着いた。

 守衛所を通り抜ける手前
 黒み帯びて煤けたコンクリートの路面で
 黄緑色した小さな毛虫に
 小型のキイロスズメバチが、のしかかっている。

 目に一瞬、闇がりから浮きあがってくる様な両者の
 カラダの彩 が飛び込んできた。
 もだえる毛虫を捕らえ、食い尽くさんとする
 荒々しい檸檬色。
 見下ろしている傍を 通り過ぎて行く人の視線がチラリ 
 私へ向けられて。

 空は うす青く和んで見えるのに
 ふと気付く
 かかる月の鋭さよ、
 それだけを 思い立ち去った。
 


自由詩 朝の月 Copyright リリー 2023-04-30 11:57:25
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