ジェイコブス・ラダー
大覚アキラ

終わりの時には
しっかりと眼を開けていたい
そこに見えるすべてを
記憶に焼き付けて行きたいから

おとといの午後
娘と二人で近所のスーパーに行って
お菓子売り場でかれこれ30分近く
ハイチュウグレープ味にするべきか
それともポケモングミにするべきか
真剣に悩んでいる娘の横顔を眺めながら
そう思った

昨日の真夜中
妻と二人ダイニングテーブルに並んで腰掛けて
実家から送られてきた蕗の佃煮と
焼きたての塩鮭をオカズにお茶漬けを食べて
どうでもいいようなお笑い番組に
馬鹿笑いする妻の楽しげな横顔を眺めながら
そう思った

今日の夕方
一人でぼんやりと歩く駅からの帰り道で
見上げると雨上がりの夕空に
淡いピンクに染まる雲間から洩れた一筋の光が
まるで天から降ろされた梯子のように
銀色に輝くのを眺めながら
そう思った

そうだよ

おれにとって
これが終わりの風景でも悔いはない

そう思えるもので
世界が満たされていけばいい






自由詩 ジェイコブス・ラダー Copyright 大覚アキラ 2005-05-11 11:54:55
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