ローマの休日(アン女王に)
本田憲嵩

大戦後の活気づいたローマ市街をせわしなく活き活きと駆け抜けてゆく
いまでも自由な少女である 永遠のあなた
ローマでの人々との楽しい振れ合い 星条旗の国から来た男とのロマンティックな恋愛
けれどもそれは公人たる女王としての通過儀礼であり そして試練の選択
夢のように濡れたくちづけの初夜をついに終えて
けれどもあなたはけっして自由の女神にはならなかった
ひとときの家出から舞い戻ったあなたは もうすでに白いネグリジェを着た聞き分けのない幼女ではなく
常にその姿勢を立派に律している 黒いガウンコートを纏った高貴なる美婦人
侍女からのミルクを拒み ビスケットを拒み (そうして一輪の薔薇も下げられ)
まるで別人のように変身を遂げた
あなたの毅然とした態度とその威厳に
ぼくはまだ火を付けていない咥え煙草を
ポロリ、と落とし まるで漫画のシーンさながらに
思わず目を見開いたまま
そうして古代から続くローマの土地にて
貴方はけっして何處の国の王女でもない このヨーロッパそのものの誇り高き女王
貴方を目の前にして
ズラリと横一列に整列したヨーロッパ諸国の記者たちの連なりから
ヨーロッパ共同体大陸の片影がかすかに見え始める



自由詩 ローマの休日(アン女王に) Copyright 本田憲嵩 2023-04-29 03:29:28
notebook Home 戻る