見送る夏
白書易
鏡を見ると寝ぐせがひどいので鏡を見ないことにして表へ出て注目を浴びたあの頃が懐かしい。
すっかりそれが当たり前の景観になってしまって巷はそんな私で溢れかえってしまった。未来に私はいる。
ぎりぎりまでに起きられないから寝坊してしまったことになる。
ズレていることとすり減っていることで世の中の仕組みを想像すると幻の歯車がカタカタ動いて見えたから
これは過去にあったことなんだと想えてきた。
小学生にもう一度なって、誰かが作ってくれた階段を上っていきたかった。
来るかこないかわからないものではなく、うんこをするみたいに生きてきてしまった。
花壇では引っこ抜かれる植物が、はじめからそこにいたようにしているのかもしれない気がしてきたころに
山の向うに大きな木を見た。ふかふかした地面を踏んで、日向ぼっこをして、
私がずっと怖がってきていたこと。
***
迷路の入り口が多すぎて誰かの入り口が出口になっていることだってあるんだよ。
だれもが救われる可能性ならどこかにあるはずと迷いながら絡まる糸に足が引っかかって転んだ。
私は誰かの逆戻りをして自分を確かめようとでもしているんだろうか。
これは日記で続きがある、
糸を紡げるようになりたかった。ひつじの生れ方を知らなかった。ひつじのことも、
パンを焼けるようになりたかった。土のことを知らなかった。種のことも、
糸もパンも作れないので刺繍もできなければ食事の用意も 存在できないで途切れてる のに
世界は幻のように作られていて制服にボタンが何個付いているかも忘れてしまいそうになって、
これは日記で続きがある。
+
これは日記で続きだ。
庭園の東屋のその天井の下にあなたはいたでしょうか
誰かの見ている影を探して街を歩いたが
グラウンドに立てたはずのポールは
大気圧でぐにゃりとねじ曲がり
彼を呼びとめる者の声が
どこかへ吸い込まれ
聞えるはずの声は返らない
空虚によって
両耳がつまっている
私が呼びとめようとしたばかりに彼は二度と帰らない。
語りえぬものを語れぬように、彼方の名を呼びとめることはできない。
それでもあなたにはまだすることが一杯あったはずなんだ
人生分の仕事があなたには残されていた。
私が私以上のことを話すことができないから
ここに居るように
国破らなくても山河在り
論理を欠いた政治のことばもいずれ通じなくなり
城春にして草木深し
人生は人脈が全てである
かんかん日照りに耐えられるだろうか、
些細なことで頭がおかしくなってしまわないでいられるだろうか、
私には誰かに聞いてもらえる話があるだろうか。
時々、思い出すと死にたくなる。