過去作二編(薔薇の美少年、百合の男)
本田憲嵩

   
   薔薇の美少年

                         
かれの手よりも おおきなオレの手で
エスコートするように そのかたく骨ばった
小さな手をとって
かよわく息づく 白い茎である項(うなじ)に
優しい クチビルを這わせるオレ――
美少年の 青くさい髪の香り
色気にとぼしい ツヤのある百合色の肌
天然の薔薇(そうび)の頬と くちびる
無垢な 茶水晶の瞳
ああ オレは女の享楽的な性(さが)
これまでに 十分すぎるほど味わってきた
アイラインを曳いた 禍禍しい好意の誘いの目も
紅のルージュを塗った 毒毒しい 唇も
湯上がりの湿った 髪の毛の臭いリンスの香りや
女の打算的な哲学
そして、オレのナメクジの舌を這わせることも――
ああ オレは彼を さらに美しいものへと変身させよう
漆黒のゴシックロリータ風のドレスに
大きな赤い薔薇の髪飾り
それらを調達して
あの華奢な純白のからだを飾り立て
親の遺産から受け継いだ
この時代おくれの貴族的な部屋のなかで
かれのウィスパーボイスを永遠に聴こう




   百合の男


面とむかい合いながら 対照になるように
手の平と手の平を 重ね合わせながら 見つめ合う
鏡の中の 天使
無垢な黒水晶の瞳は物憂げに オレを見つめている


吐きだされる 甘酸っぱい 柑橘類の息が
柔らかな風のように オレの前髪に かかるので
思わず 幸福のため息を漏らしてしまう――
これは、オレと彼との百合色の空間だ


襞のついた 純白の甘ロリのドレス を着させ
そのはにかみさえ 純白だ
まるで 女が上質のケーキを食べた時みたいに
思わず ジーンと来てしまう


これは、オレと彼との百合色の空間だ
蝶のように いじらしい 生命と生命との 鬩(せめ)ぎ合いだ






自由詩 過去作二編(薔薇の美少年、百合の男) Copyright 本田憲嵩 2023-04-12 21:24:44
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