夜の弱さへ
由比良 倖

音楽の中に消えていく。
海や枯れ葉や落ち葉が好きだ。
細々と、枯れた根っこのように捨てられる、
プラスチックのボールペンのような、
私が好きだ。


私たちは小さな電球に手をかざして、
心を信じる振りをした。
それが幻想であったとしても。

静かな、言葉に出来ない正しさを、口にする必要も無く。

宇宙生命体の輝かしさのために死ねるだろうか?
ロボットの奥ゆかしさのために死ねるだろうか?

真実を知るために、私たちはとても饒舌になって、
いつかは消えゆく街の、悲しい静けさを忘れてしまう。

それから朝の優しさと、私がひとりであることと。
粒のように消えていく運命のことなど。
(「見て、鉄くずがたくさん」)


もう、いつから泣いていないだろう?
いつから笑っていない?


「チェコの人が日本でこんにゃくを食べてたけれど、
 すごい変な味がしたって。
 何で醤油とか辛子みそとか付けないかなあ?」
と居間で適当なことを言って、それで家族と和んだ気になっている。
自室に戻っても、寂しさも悲しさも空しさも思い出せない。

毛布にくるまって、ヘッドホンの中で心のドアが開くのを待っている。
心なんていう時代遅れの言葉と、自分への再接続を信じてて、
目を瞑ると、秘やかな会話の可能性が、頭の奥で点滅するのを感じる。

音楽の中に消えていく。
コルク玉や、安っぽいビー玉や、泣き虫であったこと。
忘れられない記憶に、触れられると信じている。

(安息以上の場所へ…)

嫌いなものに触れたように。血糊のように。
干からびた後になって、やっと許されたような、
曖昧な私が好きなままで。

そして消えていくのに、明日にはきちんと老いていく身体。

疲れの中で私は思う。
悪趣味になることが正論みたいなこの世界を。

人の仕草が好きだったり、
産まれない方が良かったと思ったり、
私は余計者だと考えたり、
でもギターの彼岸の音や匂いが好きだったりする、
ただの暗い死にたがりの人間として、

私がきちんと目覚めているときに話しかけて欲しい。

そして思う、思い直す。
強くありたい。薬なんか無くても生きられる人間になりたい。


ガラスの血管の下で私たちは微笑み合った。
秘やかな結晶を予測しながら。


弱くありたい。
力と涙の両方が欲しい。


自由詩 夜の弱さへ Copyright 由比良 倖 2023-04-08 01:28:46
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