初鳴き
リリー

 今年は季節の巡りが定まらず
 戻り梅雨に降る雨の
 街で 蝉が鳴いてます

 初夏も過ぎると その年の
 誰かにとって一番はじめに聞こえた声、
 その方向へ視線を投げた人もいるでしょう

 夜半の雨音で目を覚ました翌朝
 濡れたアスファルトの路面に
 陽射しはどこか懐かしい様な旋律をハミングして
 一人で洗濯物を干していたら蝉の鳴き声が
 マンションの壁面へ反響し始め、
 ほんの短い間クレッシェンドすると
 途絶えてしまいました

 戻り梅雨に降る雨のあがった街を 
 そぞろ歩くと 
 音も 私もほんとうは
 風車みたいに回る光とひとつになっていて
 
 だれかにとっても
 いちばん はじめ鳴いた一匹はもう
 いないのです



自由詩 初鳴き Copyright リリー 2023-04-06 09:37:28
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