枝垂れ
AB(なかほど)

   


まだ
緑の生い茂った頃につく花梨の実は
毎年のように
手が届かないところについていて
酒に漬けると美味しくなるとか
蜂蜜を加えたら喉の薬になるとか
はす向かいのKさんは毎年言う

けれど
その花梨の実は家のものではなくて
荒れ放題の隣の敷地から家の屋根に
覆いかぶさるように伸びているだけで
喉薬にしたいから花梨を分けて下さい
と言えるほど
隣の亭主も僕自身も
波平さんみたいにはなれない


それから
無花果が
キイウイが
柿が
それぞれ実をつけては
家の玄関口や勝手口にせり出してくる
のをそのままに放っておくと
まず
無花果のお尻に小さい穴が開いて虫が入る
キイウイは熟す前に風に吹かれてボトン
と落ちて
柿は
柿はよっぽど渋いらしくて
ドロドロになってから鳥に啄まれる



雪の知らせも届きはじめ
実のなる木はすっかり葉が落ちてしまい
隣の縁側がよく見渡せるようになっても
花梨の細い枝の
重たそうに付いている実はそのままで
いつまでたっても

「あの頃」

なんて言っている自分もぶらさがっている



  


自由詩 枝垂れ Copyright AB(なかほど) 2023-04-04 17:43:37
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