繭に成る それが だ。
あらい

薬指には琥珀蝶
唇には迷酔蛾を
硝子の自鳴琴が砂にかわるころ
万華鏡を抜け出して
朔の元を去ります。 

角を亡くした手鞠が気ままに転がっていく
この鬼ごっこも追いかけるのもまた自由でした
           其後に灯籠が経ちました、
         ただ明りは知っているだけで
              誰もいない近くて遠い場所で、
                  幼子はお隠れになったところで。
無意識の石の意図を糸に潜して置く。すると死や霊や念みたいなものが
栄えてくる。狂ワの民が持つその童歌に礼は 自然と生えているものか。
         夏の盛りを過ぎた盆に置かれた私たちが空を見上げ

      考えている。
なにかが通り過ぎるのを、
なにかが咲き乱れるのを、
なにかが熟まれるように績まれ、
                『繭に成る それが だ。』

ただ来年も再来年も屹度違う色違う花を咲かせては腐らせるぐらいなら、
今この瞬間の風に蒔かせて、沢山の夢も希望も運に委ねて。記憶だけは
永遠に真新しいまま、祈りも願いも総て停めてしまえばいい。

     すききらい なんて興味もない けど花占い
        足元に散った 数殺した 命
    儚いね、なんていいながら 踏みにじったあとで

青の子も赤の子も黄色の子も、皆違うね。間違い探しをしながら黒白の
歯車を駆け上がる、終わりのない果てを最期まで昇って。虹が見えたり
星があったり、躓いたり転んだり笑ったり泣いたりしたけれど、

     (できないことをしようとして勇気だと讃えるヒトがいた。)
――やっぱり翼がない           『しのまえに しのあとに』
       (空白と余剰、若しくは法面に寄生された、かお・かお)

     船倉の踏み板に狡い鼠の一家がいて穀物を食い荒らし、それで
   穴があいて全部沈んじまった。昨日見た夢の続きは長い首巻きに綴
    られ、それを底におろし口から足先からハラワタからドウドウと流さ
 れていた、時代も歴史も空になるまで月陽を与え風化するほど 傾いて

――カラダはもうなかった
 (ほら、どいつもこいつも わたしから と 離れようとしない か)

薬指には琥珀蝶、唇には迷酔蛾を。
硝子のオルゴールが砂にかわるころ
カレイドスコープを抜け出して
月食の元を絶ちます。
角を亡くした手鞠が気ままに転がっていく。
この鬼ごっこも追いかけてもまだ自由でした。
                     其後に灯籠が経ちました、
                   ただ明りは知っているだけで。
                   誰もいない近くて遠い場所で、
                 わたしが お隠れになったあとで。

  ボクの言う宝石はキミのところで、心臓にあたるところで
  どうせ真直ぐに嗄れて。だとしても――炎の色に似ていた
――嘘ばかり/騙されてる
――天地が逆さまだよ
――堕ちないように溢れないように
         「きこえないか?」
           ささやかな風が耳朶に触れ頬を霞め輪郭を消す
      近すぎる花火が網膜を焼いた それだけの指をなぞらえる
              たった一片の ものは はじまりだった

たぶん私以外のすべて
特定の何かを保たない
/愛すべきヒト/亡くした家族/報われなかった、過去
               生まれ得ることのなかった未来
懐古の天壌は 在りし日よ  ――  わたしからみた、わたしいがい
視界にうつるもの総て、想像すること凡ての
                           『彼方』よ。


自由詩 繭に成る それが だ。 Copyright あらい 2023-03-17 21:59:40
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