投函
あらい

『 いつかの雨で濡れたレンズを拭き取って
  ある草藪の晴れた日に翳してみました
  けれどやはりうつくしい櫻も霞んでいきました

  あかあおきいろの紙風船は破けたままに
  背表紙さえも色をなくし
  タイトルとしての意味さえ見えず
  いろとりどりのパンジーすら、
  しおりの役目も果たさずにくすんで折りました
  今日という一ページは破かれても
  胸のうちに 一生色濃く 痕を遺していました 』

 これは、これは、春の夜の夢を写し執る
「カガミヨカガミ」と。ドラマティックにも
 日常に散らばる 或るヒトヒラのことで
 波打ち際は足元を掬い、寄せては返す吐露ですが
 リフレイン・ノイズと滴っていったのです

 ふたりの誰かは知らないままに
 夜着の裾を浚うばかりの白昼夢をすり抜け
 暗礁に打ち付け障壁を暴いたとしても
 届かなかった| 壁 |の中へと戻ることは叶わないのです

 滲んだページと一枚破り なかったことにしようとしても
 今では低いすべり台から 未来へ向かって捨てたところで


 白紙のくせに 訛っている
 耳ざわりの酔い
 誰かの
 歓声が 慟哭が 傷を遺し

 ――つづけて行った――

 あれは ヒンデンブルク飛行船の優雅さ
 あれは ほど近いほど遠い目を滅した零の戦闘機
 それは 何の種かは わからない風船を膨らませ

 紙飛行機に乗せた原文を、
 だれもが真実から離れたところで掲げ
 その名前も人生も、
 思いも祈りも紐解けやしないのに
 簡単に未来にのせて、疾走らせる、

 だれも 停められやしないところへ
 みなが 照らされるこころで

 落下していくばかりのいまは時代錯誤に貶めて
 また誰かの首を締めあげ、また誰かと共に歩んでいた


 消せるボールペンで書かれた手紙にはきっと
 ボクが死んだら一緒に燃やして下さい
 とある時代が生んだ引出物を破って
 喉に貼り付けた 濁声より バイク便より
 私を描いた物語より詰まらないものでした
 沙羅と吹き抜ける ひとひらは ありふれている
 今、記すべき言葉が どんなに照らし合わせても
 記号化された教科書像では 見つかることはありませんから


自由詩 投函 Copyright あらい 2023-03-11 12:17:02
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