私の名は、スタヴローギン! (2023年改訂版)
atsuchan69
まばゆい時間の 小刻みにゆれる青さ
珊瑚礁を覗かせて萌える 艶やかな森の木々
哀しみも知らず どこまでも陽気にうかぶ島々
歓びにあふれる光
しろい砂浜と椰子の木と影
涼しげな風、
美しい女奴隷や ワインとチーズ
いにしえの牧歌を口ずさむ碧緑の瞳の男娼たち
小指一本ほどの贅沢なくらし
ここはタクスヘブン 地球のどこか
薬と皆殺し すべての悪のもたらす対価の景色 そのもの
指先は ふるえながら、
針の痛みにつづく濃密な空気や 恐れ
滲みだす 底なしの虚無の力と気配に、
落ちてくる巨大な隕石 やがて
まぶたの裏側に容赦なく描きだされる 至高の瞬間、
もはや錯覚と悟らせぬほどの
みごとな色付きの 勝手に動きまわる影、
私の抑えきれない想いを
一滴の肉汁も漏らさず たっぷり含んだ影
待ちわびた夢の訪れ
突然の眼も覚めるような幻覚、
あいつだ!
あいつが今そこにいる!
燃えたつ地獄、
私のビジネス
おびただしい数の銃弾 劣化ウラン、
悲鳴
走り泣く子らのさけび
バナナの葉で巻いた甘い紫煙、
ちがう
私は詩人だ、天使ウルトビーズ
<君の画策する未来において詩人たちの処遇を知りたい>
ああ、そうさ。ウルトビーズ 彼らは最上位の
祭司階級に他ならない、異論はない
――この世界は幻である――
と、つよく確信すればこそ出来た あの殺戮 あの悲劇 あの惨事
映画「ドッグヴィル」を観たあとのような、
後味のわるさのつきまとう なんだか嫌なかんじ
いやこれは夢なのだ
そして父は死んだ、
夢想家特有の 緻密すぎる長い文章が致命的だったのだ
彼の死後 つかの間おとなしくしていたが、
マルクスの耳元でささやくと
ついに 彼は筆をとった
つぎにトロッキーを扇動し、レーニンを手なづけ
スターリンを誘惑した
やつらは 皆(トロッキーは失敗した) あの高い山の頂に連れだすと
ほくそえみ、
すぐさま頷き すすんで魂を売った
私の名は、スタヴローギン
詩人である、
だがしかし ビジネスで扱う武器のほとんど すべてが
OEM生産された、
ナチスだ!
聞け、宇宙を夢見る力こそ真実なのだ
ビキニ姿の唇奴隷がカクテルを運ぶ
彼女は自分の身分について 何も 何も 知らない
その天真爛漫さが 愛らしく
私の手が
彼女の尻に伸び、
やわらかく弾力のある感触 湿り気をおびた砂まじりの肌
潮風のいざなう匂い 微かな恥じらいをともなった
あの悦びの 場所を たしかめる
言葉をうしなった唇をみつめながら
ついに私はそれ以上の行為をはじめようとしていた
同時刻
地球の反対側 とある国にて
未明に
イナゴの群れがおとずれて村を焼いた
燃えおちる藁葺の屋根 また燃えおちる 燃えおちる
イナゴは旋回し、また もどってくると
村から森から一斉に機銃掃射を行った
逃げまどう村人に口封じの射撃を無差別につづける
将軍に、
ささやいたのは もちろんこの私
新兵器の 単にテスト
が目的だった
同様に、社会構造を操る目的で
私は
「正規」「非正規」の言葉をひろめはじめる
やがて訪れるだろう新時代!
奴隷 管理者 超人
この枠のなかで 人はもはや人ではない
私はこれらの悪の所業によって神々に等しく、
恐れるものもなく 安穏とした日々に歳をかさね
一本の指先でこの星をもてあそぶ
未来も 過去もなく
ただ、
映画「ドッグヴィル」を観たあとのような、
後味のわるさのつきまとう なんだか嫌なかんじ
いやこれは夢なのだ。
初出:文学極道 (2006年4月)