ヒタキ
なつき
雲間から
ひと筋の光が射し込む
いつの日か
君とならふたりで居られる
そう信じていた
いつかの日のこと
心とは裏腹に
涙がはらはらと舞う
こんなにも冷徹に
君の行く末を見ていた
その筈なのに
何故だか、躰が崩れてゆく
キビタキの囀りが聴こえる中
僕は遠い目をして
彷徨い歩いた
光の射す一点に向かって
ただただ
まだ大丈夫だと思いたくて
信じたくて
それだけのことで
僕がまだ君に縋っていることを
漸く悟った
恥ずかしい話
君が居なくなってから
老眼鏡の在処も判らなくなって
新聞も読まなくなった
連れ添った年月には重みがあると
自分だけが信じ込んでいた
どうどう
風よ、そんなに暴れないでおくれ
どうどう
涙よ、そんなに溢れないでおくれ
振り返れば勝手な人生
それなりに我儘も通してきた
温もりも寂しさも酸いも甘いも
知っているつもりだった
君が最後のよすがだと知って
なおまだ今生に未練がある
君の居ないがらんどうを
どうやって埋めていくのか
それが解らなくて
僕は、年甲斐もなく
泣いた
それから季節は巡り
君は戻ってきた
少しふっくらとした面立ちも
柔らかな髪も
いつものオードパルファムの香りも
すべてが懐かしくて
新しくもあった
僕はまた新聞を読み始めた
老眼鏡の在処が判ったから
躊躇うこともなくなった
遠く遠く
山々の向こう側に
僕と君の故郷がある
如何だろう
また、行ってみないか?
君の頭を手櫛で梳かしながら
僕はボソリと、声を掛けた
返事はこれから
愛ならここにあるし
夢なら今からでも
また紡げばいい
ふたりでならきっとできると
また我儘なことを思い始めて
君はくすりと
はにかんで笑った
それだけでいい
たったそれだけで
僕は生まれてきた意味を
もう一度噛み締める
キビタキが宙を切る
あの鳥の囀りが恋しくて
戻ってきたのだと
君は嘯く
ここに在るのは
僕等ふたり分の居場所だけだ
忘れ得ぬ想いが根を張って
それで今が在るのだと
そう信じている
ヒタキに誘われるようにして
僕等の旅は
とどまるところを知らない
まだ大丈夫
君となら、きっと何処までも行けるからーー