春の訪れ
なつき

肌と肌
擦れ合い
デコルテに
爪痕を残す
なんてことのない
ここは魂の坩堝
外は風が冷たい
冬の終わりに
また交われた歓び、哀しみ

背中にまとわりつく
不快な重み
正体は知らない
たぶん、期待ってやつらしい
無碍にもできない
それは知っている
何もなくなってからが
本当の勝負
それくらいに思っている

独りぼっちの逃避行を続けて
君に出逢った
感情が溢れて
ひとしずくの涙
鼻の頭を濡らす
君は笑った
瞬間、それまでの苦悩がすべて
ガラガラと音を立てて崩れた
何度でもやり直せる
そう信じて
空っぽの心を
記憶の欠片で
埋め尽くしたい

君よ、好きだ

透明な悲しみの切々と降り積もる宵に
君の笑顔をいつか焼き付けたなら
そう思って
絡まって
転んで
立ち上がって
またしくじって
それでも折れずに
まだ行ける
まだやれるって

俺は頑固で
君は綺麗だ
そんなこと
出逢った時から
知っていたよ

風が凪いだ
もうろくした曇天模様
俺は膝小僧を擦り剥いて
子供のように笑う
忘れていたんだ
笑顔なんて
久しく作っていなかったから
君となら笑顔でいられるから
そんなに楽しい話はないと思って

抱き締めて
折れ重なって
勇気なんてなくても
まだ生きていられると知って
俺はようやく
大人になれた気がした

ぐるぐると脳天が回る感じ
これも大人の恋
いつか愛に変わったら
その時はふたりでお祝いしようか

この冬最後だろうか
東京にも崩れかけの六花が舞い降りた
己の涙も、こんな時にはカムフラージュできるから、便利だ
はじめて、外で手を繋ぐ
君の髪を後ろで束ねてやると
そうっと笑ったから
耳の後ろにキスをした

もうすぐ、春だね


自由詩 春の訪れ Copyright なつき 2023-02-19 04:52:49
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