寿司日記
服部 剛
月に一度、妻は数日家を空ける
( 詩人の夫とダウンちゃんの息子の
世話してるゆえに、それぐらいは
当たり前田のあたりきしゃりき)
その数日の間は
息子を学校へ送り出した日中に
寿司屋へゆく
「今日はテイクアウトで家呑みだ」
にんまりと寿司屋から戻り
漢字の魚たちが無数にひしめき合う
包をゆっくりと、私は開き
まほうの水をくいっと一呑み
した後に
「あれっ 中トロ八貫頼んだのに
二貫足りない…」
私は受話器を取った
そして、ダイヤルを回した
ゆらりゆらり、坂を登りきり
ふたたび暖簾をくぐると
いつもは寡黙な大将が
椅子に腰掛け、しょげていた
「イヤァ気になさらず」
いい人そうなふりをして
一貫サービスの
寿司の包をぶら下げて
ゆらりゆらり、坂を下る
あぁ冬空はすんで青い
気がつくと私の頬は赤い
なぜだろう
今日は北風すらも
心地よい・・
──あなたにとっての中トロは、何ですか?