二人は森に住む
ただのみきや
明け方の夢の中へ
二人の少女を置き去りにした
二人が望んだことでもあった
彼女たちはわたしの一部だった
寝付けなかった
疲れはたまっていたし
酒もしこたま飲んではいたが
職場のとばっちりで忙しく
変に上司に気を遣う日々が続いていた
とるべき休暇に
何か言い訳をつけなければいけないような
そんな普段と違う考えが巡り感情が毛羽立って
昨日となにも違わない今日にもうなっているのに
寝返りの度に頭だけがぷかぷかと岸辺に寄せられて
呪術は自然に施される
──暗い夜の森に迷い 沼底へ
対照的対称としての半身がわたしを引きずり込むように
星一つない真っ暗闇が天を覆い
死のような眠りが今にもわたしを奪い去るように
こわれたネオンさながらの意識が風にほどけて色を失くし 遠く
どこでもない領域で散り散りになるように──
無数のイメージが声もなく高らかに宣わっていた
甲斐あってか明け方には少し眠れたようで
その夢の中わたしというわたしたちは
二人の少女が夢の中に残ることを了としたのだ
なんでも深刻に考え込む子と人の顔色を気にしすぎる子
彼女らはその瞳で覚醒時に戻りたくないことを訴え
この深い森でキャンプ生活がしたいと言う
確かにそれがいいとわたしたちも感じていた
ただし連絡は保つこと
方法は夢と詩ということで話がまとまると
すぐにAM5時のアラームがわたしを朝の屍とした
仕事は相変わらずひどいものだが
甲斐あってか以前より少し気が楽だ
ただ短気で怒りっぽいやつがやたらと前面に出たがるし
なんでも馬鹿にして面白がるやつも抑えがたい状況で
いい歳してなにかやらかしてしまいそうだ
今ごろ彼女たちは姿を変えて
美しい二つの花と見分けがつかない精霊の類や
不思議と後を追いたくなるような
胸の真中で柑橘を搾る そんな気配を醸す
小動物にでもなって森で暮らしているのだろう
(2023年2月11日)