奥様
坂本瞳子

奥様という響きが嫌に長引く
もう名前では呼んでもらえないらしい
なにを期待していたんだろうか私は

奥様と呼ばれるたびにうんざりとする
遠くを見ても近くを見ても
代わり映えのしない毎日がそこにある

奥様であることをたまには忘れたい
束の間の逃避行
束の間の休息
すべて刹那のごとく泡と消え
また現実に連れ戻される

奥様は裕福でなにひとつ苦労を知らず
それでいて満たされない想いに苛まれるだなんて
贅沢の極み
ただそれだけ
たわいもないこと

奥様になりたかっただろうか
奥様でいたいだろうか
奥様をやれているだろうか

奥様をやめられるだろうか

奥様と呼ぶのをやめてもらえるだろうか

奥様は
もういらない


自由詩 奥様 Copyright 坂本瞳子 2023-02-06 22:38:01
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