奥様
坂本瞳子
奥様という響きが嫌に長引く
もう名前では呼んでもらえないらしい
なにを期待していたんだろうか私は
奥様と呼ばれるたびにうんざりとする
遠くを見ても近くを見ても
代わり映えのしない毎日がそこにある
奥様であることをたまには忘れたい
束の間の逃避行
束の間の休息
すべて刹那のごとく泡と消え
また現実に連れ戻される
奥様は裕福でなにひとつ苦労を知らず
それでいて満たされない想いに苛まれるだなんて
贅沢の極み
ただそれだけ
たわいもないこと
奥様になりたかっただろうか
奥様でいたいだろうか
奥様をやれているだろうか
奥様をやめられるだろうか
奥様と呼ぶのをやめてもらえるだろうか
奥様は
もういらない