アースランテとファシブルの和合
朧月夜
二万の軍勢が、八千あまりのアースランテ軍に敗れて以降、
ファシブルの議会では、アースランテとの和睦が取り沙汰されていた。
「これ以上、被害を大きくして、どうなさいますか?」
「アースランテの土地から、我が国の民を引き揚げさせるべきです」
そうした陳情は、すべてマリアノスへの重圧としてのしかかった。
国母であるとは言え、マリアノスには議会の全権を掌握する力はなかったのである。
マリアノスは、右傾化する議会に否を言えなかった。
これは、ファシブル一国の問題ではない。次のライランテ戦争を左右する決断だ。
マリアノスは、「国民の命を最優先にするように」と言った。
それは、様々な解釈を招き寄せるような言葉だった。
そして、ファシブルの議会は動き始めた。アースランテと連合を組む路線に。
「アースランテの王、ハッジズは、幽冥界のデーモンであるラーディガンとも、
密約を交わしていると言う。このこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そんなことだけが、マリアノスに許されている唯一の自由な発言であり、意思表明だった。
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クールラントの詩