あたらしい爪痕
ただのみきや
眠ることのない歌の終わりに貝殻を割った
ひとしずくの濁った海の堕胎
光の焦点は黙したままの唇の爛熟に浸透する
夢の灰は睫毛に重く
子供らの歓声の抜け殻は色を失くしていた
かつては魚の目を覆った木綿の頭巾
わたしたちは夜を駆った
興奮と酸欠で泡立てられた甘い時間を冷たい銀時計に隠したまま
熟れすぎて売りものにならない太陽を抱いて
顔のない幸福に齧られている枯れた聖母の胸の門をくぐった
ねじ伏せられた影をたたむこともせず
首を刎ねられた変わりに荷札をつけられている
だが冷凍肉は霧の椅子に座をしめて
縦に裂けてゆくあの男たちのように叫びを石化させる
記憶の谷の上にはいつも虹が架かっていて底を覗くものはいない
(2023年1月7日)