爆発
暗合

 あたたかいきもちは、いつだって僕を傷付けてきた。これは幸せになるためにあるものではないのか。笑って、僕に「君は出来ないよ」という怪物に僕は泣きながらうなずいている。怪物の言う通りだった。僕は何も出来なかった。
 SFだかサスペンスの漫画に、人間の頭が爆発するシーンがあって、そんなことが出来る超能力者は遊びのように視界に映る人間たちを爆発させていく。白い脳みそがたくさんアスファルトにこぼれている。爆発する瞬間の、あの女の子の目が飛び出して、よかったね。とても目は大きく綺麗に見えるよ。だから僕は花火大会に来ていた。僕もいつか痛みを感じる間もなく、世界に弾け散るのだ。瞬間の激痛は、むしろ快感だろう。そんなことを思いながら、夕方の駅前で大勢の人間が通り過ぎていくのを、頭蓋骨の中でひたすら、撃ち殺していた。でも、仕方がない。僕の故郷の星はここじゃないのだ。同胞たちが移住するためには、原住民を駆逐しなくては。本当のことをいうと、同胞たちは核戦争で全滅した。もっと本当のことをいうと、僕は実は地球人でした。
 僕には友達がいる。友達は僕のことを大事にしてくれる。だから僕も友達のことが好きだ。僕が泣いているときには僕の側へ静かにやって来て、ずっと背中を、あたたかい手でなでていてくれる。僕はいつも友達に甘えすぎてしまう。そのことを友達に謝ると友達は「気にしないでほしい」と言った。だから僕は友達を撃ち殺した。どんな顔をしていても、頭が爆発すれば、いつもと同じ景色だ。白と赤と黄のカラフルな甘い飲みものを地面に撒き散らした。鼻の奥まで甘い匂いがする。でも僕が法的に裁かれることはないだろう。ここは頭蓋骨の中の世界だから。
 きっと僕はこれまで意味のないことをやり続けていたのだろう。空を見ると、遠い青が我々を知らない場所へ追いたてる。天球がまるで卵の殻のように見えた。満員電車の中、隣の中年男性の吐く息を吸う僕は何も持たないガキだ。太陽は真空の塊だ。あまりにも眩しいから誰も気付かないけれど少しづつあの巨大な真空は我々の生活を浸食して、いずれ僕は何も話せなくなるだろう。それなら笑って死んでいける。死ぬときに、「僕を忘れないで」なんて言わずに、余計な後悔を抱かずに済むから。でも実際、僕のことを誰も覚えてはいないだろう。それはそれで、とてもやりきれない。


散文(批評随筆小説等) 爆発 Copyright 暗合 2023-01-04 12:38:32
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