どこか雨季のきれいな海
雨宮吾子
きらきらとした雨季がきて
細雨が天から降り注ぎ始めると詩人は舟を出す
果てのない海に漕ぎ出すことは恐ろしくもあるから
せめて湖畔に住みたいと思いながら
靴を履いて海へと向かう
天からの恵みたる雨は山地の羊飼いから海辺の詩人に至るまで満遍なくその慈悲を授ける
大地に降り注いだ慈雨は長い年月をかけて海へと還る
その間に濾過されるものと濾過されずに流れていくものがある
どちらがより美しいかと詩人は想いを馳せる
雨のきらきらとした成分は濾過されることなく海へとそのまま流れ込む
雲のように雄大な冒険を経て宝石のようだというにはあまりにも純潔なる輝きが海にもたらされる
詩人は時折水面に手を差し入れながらゆっくりと漕ぎ出していく
きららかな海のその中で詩人は祈りを捧げる
去っていた者たちへここに住まう人々へいずれ来たる若人へ
ここはどこか雨季のきれいな海