冬/短詩群
ちぇりこ。
「風の強い日」
ぽっかりと空いた
鳥の空洞に
冬を詰め込んだら
空
あんなに高くなるんだ
街で暮らす人の目は
うつくしい等高線を
描き出す
いつの間にかの
水溜まり
天気予報の神さまが
溺死している
落ち葉で隠して
ばいばい、ね
冬に生まれた
つよい子の
ありふれた下校時間
風、強いね
「冬の頂」
頭をもがれた白い鳥の群が
でたらめな旋回で
きりもみ
きりもみ落下した
体温を放棄する冬の朝
祝祭の残滓は
澱む排水溝の底で
天気図を書き換えて
あの星を隠してしまう
冬の大地に根を張るしかない
金色の瞳をした子どもらは
隠された星を掴もうとする
奔放な背伸びをして
指さきを伸ばして
冬だというのに
脈動する針葉樹を内包して
もう冬の頂まで
「KEMONO」
胸の空洞に
冬の毛並みをした獣が棲みついた
吐く息は白く
いよいよ月の夜には
遠吠えも心細くなり
空洞は拡がる
毛並みを残して獣は
どのように
消えてゆくのかを思案する
明度の低い冬の影は
白い大地に刻印する
滅びゆく印
立ち枯れた彫像の胸に
爪痕を残して
どのように滅んでゆくのか
思案する
「冬至」
顔のない夕暮れは
お母さんの匂いがした
大きな影に寄り添った
温もりをおぼえている
夕になるといつも
手足が縮まって
背中を
ひゅん!と走る
落日が怖くて
浴槽の底にへばり付いていた
もう大丈夫って
声をかけて貰いたかった
台所でことこと煮込んでいるのは
昨日ですか今日ですか
あまりにも短い落日が
頭をもがれて
渦を巻いて
排水溝へと吸い込まれてゆく
夜はとても早口の
音声データの逆再生で
冬の仕草を真似ています