イリアスの矜持(六)
朧月夜

「何度でも言います。わたしは世界の行く末の鍵にはなりません」
「ははは。そう思っているのは、あなただけですよ。
 現に、アイソニアの騎士は、この場所へと向かっている」
「グーリガン様……」

「アースランテが滅べば、このライランテ大陸では、
 ラゴス、クールラント、ファシブルの三国が台頭する。
 そして、そのうちの一国が大陸を支配するのです」
クーラスは言ったが、そこには計算の狂いが含まれていた。

ライランテの東部の小国たちの動向、そして、レ・スペラスの動向を、
考えのうちに入れていなかったのである。歴史とは、
常に大国の動向のみによって左右されるものではない。

祭祀クーラスは、クールラントの筆頭祭祀という要職にあって、
大切なことを忘れ去っていた。すなわち、国とは人の集まりだということである。
個人とは、時に権力者の立場を滅ぼすものなのである。


自由詩 イリアスの矜持(六) Copyright 朧月夜 2022-12-26 15:09:59
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
クールラントの詩