星化粧の夜
塔野夏子
シリウスの光を砕いてその瞼に
ベテルギウスの光を溶いてその唇に
さいごに淡い冬銀河の光を
その面輪にうっすらとのせて
私がこうして
君に化粧をほどこすのも
これが最後
冬の星に彩られた君は
この夜の冷たい空気のなか
何処へ向かうのか
知らない――ただわかっているのは
もう此処へは戻らないこと
君は何も云わないけれど
君の面差しに静かな決意が
満ちていたから
私が化粧をほどこすほどに
その決意の輪郭も
いよいよあざやかになっていったから
ああ今君はとても綺麗だ
そのことを忘れない――そして
それだけでいい