エインスベルの逡巡(九)
朧月夜
エインスベルは一瞬戸惑ったが、次の瞬間には自身を取り戻していた。
「貴女の言いたいことは、よく分かった。要は、
有言実行を他者に対しても敷衍せよ、ということなのであろう?
しかし、己の身を己で守れない者に対して、用はない」
「エインスベル!」戦士エイソスは叫んだ。
自分の妻が、エインスベルから侮辱されているように感じられたからである。
しかし、同時に自分の無力さを顧みる余裕もあった。
「俺は、俺自身ではクシュリーを救えなかったかもしれない。
しかし、それはクシュリーの咎ではない。俺の咎だ。
クシュリーを責めるのは止めてくれ」それは、必死の懇願だった。
戦士エイソスは、エインスベルの非情さ、合理主義をよく心得ていたのである。
「エイソス。貴方の妻は、貴方の妻だ。しかし、クールラントに乱を起こすのであれば、
わたしは、貴方であれ、貴方の妻であれ、滅ぼそうとするだろう。
そのことは、心得ておいてほしい」エインスベルは、いつにも増して冷たい口調で言った。
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クールラントの詩