エインスベルの逡巡(九)
朧月夜

エインスベルは一瞬戸惑ったが、次の瞬間には自身を取り戻していた。
「貴女の言いたいことは、よく分かった。要は、
 有言実行を他者に対しても敷衍せよ、ということなのであろう?
 しかし、己の身を己で守れない者に対して、用はない」
 
「エインスベル!」戦士エイソスは叫んだ。
自分の妻が、エインスベルから侮辱されているように感じられたからである。
しかし、同時に自分の無力さを顧みる余裕もあった。
「俺は、俺自身ではクシュリーを救えなかったかもしれない。

 しかし、それはクシュリーの咎ではない。俺の咎だ。
 クシュリーを責めるのは止めてくれ」それは、必死の懇願だった。
戦士エイソスは、エインスベルの非情さ、合理主義をよく心得ていたのである。

「エイソス。貴方の妻は、貴方の妻だ。しかし、クールラントに乱を起こすのであれば、
 わたしは、貴方であれ、貴方の妻であれ、滅ぼそうとするだろう。
 そのことは、心得ておいてほしい」エインスベルは、いつにも増して冷たい口調で言った。


自由詩 エインスベルの逡巡(九) Copyright 朧月夜 2022-12-19 20:47:17
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クールラントの詩