soft_machine

あなたは いなかった
夕ぐれに いなかった
いつもの 待ち合わせの
影は幻を ゆっくりと曳き
わたしは 影と影をくまなく探した

あなたは いなかった
人ごみに いなかった
わたしは 制服で
精一杯 背をのばし
改札に吐き出される 人ごみで
小さな あなたと すれ違わぬように
片手を空けて 待っていた

けれどあなたは いなかった
終電にも始発にも いなかった
ベンチの下に いなかった
疲れた 足音にでも 溶かされたのか
残された写真は どれも知らない人だった
けれど 手掛かりは口を揃える
貴方 わたし達 知ってるわね

そうやって あなたはわたしを棄てたのか
わたしが知らない者に
わたしを預けてしまえると
ふるさとは 線路につづく
炎に包まれた
山の向こうの 幸せ
こんな 簡単なことに気づいた頃に
あなたは 消えてしまったのか まぶしくも
残酷な うつくしさだけ残し
またたく幻
あなたは いなかった

これは 座りこんだ迷子
遺失物係の かなしみでよみがえる
不器用で 不安定なひかり

こんな想いもいつか
いい音色で響く
いい匂いで笑う



自由詩Copyright soft_machine 2022-12-18 23:25:57
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