エインスベルの逡巡(六)
朧月夜
「この世にはそもそも、魔導などというものはなかったのです。
この世には、祈りだけがありました。それがいつしか、
人々は魔導に頼り、この世からすべての言葉が失われました。
それが言語崩壊の真実です。そして、世には様々な魔物があふれた……」
クシュリーの表情とは裏腹に、彼女の口調ははっきりとしていた。
それは、エインスベルにもエイソスにも分からないことだったが、
クシュリーはある種の真実を知り、それを継承している者のようだった。
「エランドル・エゴリスを知っていますか? 彼こそが諸悪の根源です」
「わたしは、エランドルに一度会ったことがある」と、エインスベル。
クシュリーは頷く。「彼は、貴女をも取り込もうとするでしょう。
いいえ、彼はすでに貴女を取り込んだのです。世界を破壊する礎として」
「何だと?」と、エインスベル。その顔つきには怒気が露わだった。
「貴女は魔女です。エインスベル。エイソス様と共に行かせるわけにはいきません」
クシュリー・クリスティナの決然とした表情に、エインスベルは我を忘れた。
この文書は以下の文書グループに登録されています。
クールラントの詩