はじめまして、もうやめましょう。
竜門勇気


友達の結婚式に行くような格好で
街を集めていく
左手に花を持って歩いていく
花瓶から引き抜いたまま
夢の中ですら自由になれない

何も感じないのかって
君は僕に聞くかもしれねーが
何か感じないのかよって
君は思ってみるのかもしれねーが
夢ん中ですら自分でいられない

さみしさやいらだちを
持て余しながら
部屋ん中で酔っ払って
どっかの国のどっかの人の死で
気持ちよくなってる
ああ!僕は大変に腹を立てたよ!
明日には僕は変わってるはずさ
愚かさについて大いに知見を得た!
明日には立派な人物になっているのさ

はじめまして
高校生の頃から詩を書いていました
バンドもやってたんですよ
グラインドコア!ライブハウスに出禁になるほど激しいことやって!
いやあ、今は趣味でギター弾いてるくらいです
今年四十歳になったんですけど
やっぱり激しい音楽はまだ聞きますねー
いろいろなジャンルも聞いたりしてますよ!
やっぱり詩も言葉であって
バンドとも一緒なんですよギター・ベース、ドラムでも
ジャズもあればロックもあるでしょう
たとえば、いや、ああ、もうやめましょう

友達の結婚式に行くような格好で
街をずっと集めてる
街の中にある僕のかけらを
早く全部拾っちまわなきゃいけない
ぼやぼやしてるうちに
世界がみんな僕になっちまう

高校生の頃からネットに詩を投稿とかしてたんだよね!
美大受けたこととかもあってさ!
箸にも棒にもかかんなかったけどさ!
鍵かけて出かけんのは誰もいなくなるからさ
鍵を探しながら眠たくなんのは
もうこれで今日が終わりだからさ
はじめまして、ああ、もうやめましょう

何も感じないのかって
君は上手にソファーに座る
何もわからないのかって
君は部屋の明かりを少し暗くする
もっといいアイデアがお互い出ると思ってるのさ
笑われるのが嫌でも笑ってるのは好きだよ
だから楽しくなくても笑ってるのさ
何も楽しくなくても?
そう、ずっと笑ってられる
訓練したんだ

いやあ、昔のインターネットって
小さなコミュニティが点在してて諸島的なリンクが
文化と文化を繋いでる印象だったけど
今は大きなハブがあってそのハブ自体がコミューンの自治を
担ってる場合が多くて集権的であると同時に
インターネットの自治の最小単位を模索している時期だったとも言えると思っててさ
ねえ、そんなこととかはとりあえず置いといてさ
もう、やめましょう。
もう、ここではなんにも起きないよ

友だちの結婚式に行くみたいな格好で
部屋の中に座ってる
集めた街を大きな瓶の中に入れて
キラキラ光る火花の出来損ないを
ずっと眺めてた
はじめまして。たくさん使った言葉のように思ってた
もうやめましょう。馴染みのない言葉だと思ってた
詩をずっと書いてたんですよ、僕は
もうそれしかないんですよ、君に
胸を張って言えることなんて
それだけしかない
一生懸命やったことなんてそれぐらいしかない

もうこれ以上僕のことは聞かないでくれ
はじめまして、もうやめましょう。


自由詩 はじめまして、もうやめましょう。 Copyright 竜門勇気 2022-12-03 00:50:04
notebook Home 戻る