甕
まーつん
結局、生きるしかないのだ
という諦めの言葉が
泡となって水面に浮かび、弾けた。
そう、言葉はいつも弾けて
行方知れずになる
かつては
胸の奥の熱い火が
水のような心を沸かせた
沢山の言葉は
泡となって湧いてくる
湧きたつ心の奥底から立ち昇り
水面に弾けて消えていく
その言葉のすべてを
覚えている訳じゃない
その時自分が、なにを願い
未来の自分に、なにを約束したか
その多くを、後になると
忘れてしまった
それは
目の前で、踊るように移り変わる
色や形に気をとられてか
あるいは
言葉が導く先にある
明るい場所が、怖かったからか
蝶を追いかけて野原に遊ぶ子供が
夜の闇に家路を盗まれるように
今、僕は独りぼっち
心はとっくの昔に醒めて
それを熱く沸かせていた火も
今はもう、小さく縮んだ舌で
甕の底をちろちろと
舐めるだけだ
その甕は
僕という人間そのままに
小さい器でしかなかったけれど
この年老いた子供は
後生大事に、それを抱えて
家路を見つけようとしているんだ
太陽より、ずっと冷たく
けれど、ずっと鋭く照らし出す
月と星の、明かりを頼りに
今も泡は昇ってくる
甕の水面に弾けている
かつてより、ずっと少ないけど
望むらくは、ずっと懸命な言葉が