世界パンパカパーン!
角田寿星


お花畑があって、
あるいはお花畑があることを切にねがって、
分不相応なドレスを身にまとった娘さんが、
いい年こいて錯乱して走り回ってます。
「おほほほ」なんて言ってます。すごいですね。
彼女の周りにひらひら飛んでるのが世界です。
世界って、すごいですね。

てゆーか、ぼくらすでに、ワンナウトなんです。
もうすぐ新装開店だっつーのに。
ぼくら二人三脚の紐がキツすぎて、肩を組み合わせ、
目下のとこマジメなベースランニングの真っ最中です。
ワンナウトというビミョーな距離感でした、
上空にうつくしくボールは輝いて、
うそっこの三角形ダイヤモンドで、
ぼくらまっすぐなまでに真摯な道程でした。
おかんが短いタメ息まじりにツブヤくんです。
まったくこの子たちは…投げなきゃいいのにねえ、
打たれたくないんなら。

確実に伝わるイタみって、
いったいどこにあるんでしょうか。
ガキの頃のことなんか思い出したくもありません。
ビンボーでドンくさくてみそっかすで、
小突かれたり蹴とばされたりはしょっちゅうで、
大好きな人はどんどん死んでったりいなくなったり、
たまに誘われる野球はいつも球ひろいの役で、
いちにちみんなの家来をやらされて、やっとの思いで10えんもらって、
その10えんで駄菓子を買って弟とふたりで分けて、
その10えんで駄菓子を買って弟に見せびらかしながらひとりで食べて、
その10えんで弟を家来にしておとんにイヤというほどブン殴られて、
おとんはブン殴りながらなぜか眼に涙をいっぱいためて、
ぼくら生れたときから虫ケラのようなワンナウトでした。

でもなつかしいんです。

今でもときどき、夢にみるんです。
高い山にひとりのぼって、でも寒くもひもじくもなくて、
眼下には死んだように湖が横たわってます。
湖をまぶしく照らして映る、
あまねく照らして映る太陽が、
野球のボールになって、
おおきなおおきな100えん玉になって、
ツクダ煮みたいなぼくらを照らすんです。
未だ見たことないあこがれの100えんだまはキラキラと、
まさにぼくの切にねがってたソレでした。
100えんってすごいですね、って言いたいんだけど、
今どき100えんじゃあ、
缶ジュースひとつ買えませんね。


自由詩 世界パンパカパーン! Copyright 角田寿星 2005-05-07 15:49:36
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