石ころの星々より
本田憲嵩


   1

それは、ちょうどぼくと入れ替わりで、定年をむかえて辞めていったおっさんがどこかの河原で拾ってきたものなのか。
トラックのフロアにあったそれは、ドアを開けるたびにあまりにもころりんと元気よく地面へところげ落ちるのものだから、その都度ぼくは地面から拾いあげては、トラックのフロアへと連れ戻してやった。それを拾い上げるとき、いつもその手ざわりがとても滑々としており、それがなんとなく手のひらに心地良かった。その行為があまりにもほぼ毎回毎日ドアを開けるたびに繰り返しになるものだから、ある日とうとうぼくはそれを持ち帰ることにした。

   2

それは長い年月にわたって河の流れに身を任せていたせいなのか、ざらざらとした角はすっかりと取れきっており、楕円形に丸くなっていた。それの表面がところどころラメが入ったようにきらきらと無数に綺羅めいていることに気づいたのは、自宅に持ち帰ってみて、じっくりとそれを観察するようになってからだ。

   3

最初それは、砂の中によく混じっている「星の涙」といわれる粒状の石英や長石が無数に付着しているものなのかと思っていたが、それはまったくの間違いであった。綺羅めいているそれらの部分はよくよく見てみると、黒いツヤがわずかに剥き出しになっており、そこが反射して光っているようにも見えた。なぜこんなただの石ころがこんなにもキラキラと光っているのだろうかと考えて不思議でならなかった。そのうちどうしても気になってしまい、とうとうインターネットを使ってまで、その石ころのことについて調べてみる。それの正体が判明するのに、そう長い時間はかからなかった。

   4

河の荒波に流れるままにまかせ他の岩や石や物なんかにぶつかりながらも、丸くなり研磨されていったのであろうそれは、こちらの地方では、「十勝石」とよぶ黒曜石のことで、そのただの石ころはその原石だったのだ。ぼくは思わぬ宝石を手に入れたような気分になった。

   5

社会の荒波に押し流されるのは、もしかしたらそう悪いことではないのかもしれない。ぶつかりながらも若さゆえの角が取れ、丸くなることもけっして悪くはないのかもしれない。そのように長い年月をかけて、たしかに研鑽されてゆくものがあり、やがて魅力的な輝きを放つようになることも、もしかしたらあるのかもしれない。それはけっして目立つことはないのかもしれないし、一見ありふれたなかのひとつに過ぎないただの石ころのように見えても。

   6

その石ころの宇宙(そら)に無数に綺羅めいている星々を眺めながら、ぼくは今、そんなことを考えている。



自由詩 石ころの星々より Copyright 本田憲嵩 2022-11-20 00:47:23
notebook Home 戻る