禎三じいさんの心肺は
焼玉エンジンで出来ている
血走った目ん玉で
真っ赤な火をぐるぐる吐き出す
禎三じいさんの体は
長い年月をかけて
魚どもに食べられてきた
腕や足を食べられてきた
禎三じいさんは腕や足が無くても
焼玉が燃焼し続ける
だから毎日漁に出かける
2ストローク型の夜が明ける
シリンダーの圧縮工程が始まると
高速で襲いかかる三角波
噴射ポンプは
血反吐、吐き吐き
冬が来る
読経のような海鳴りが
海面を覆い尽くすと
巨大な船舶の幽霊が
お前の体もってくぞ
まだ生きてるんだね
もうだめかもね
そんなことは
とっくに
古い海図には記されていた
禎三じいさんの真上では
海鳥が不穏な旋回を繰り返す
禎三じいさんは黒い鉄の塊で
錆び付いた海水に浸されている
もう、ずっと浸されている