取るに足らない嘘のこと
はるな
そして、見知ったような街で生活している。
すべての箱を開けて、埃を拭い、それなりの場所に配置して、箱を潰しきるのには5日あれば十分だった。そのあとは右のものを左に動かしたり、左のものを上へ持ちあげたりしながら暮している。
そんなふうにぼんやり暮らしているわたしはともかく、新しい校舎、新しい教科書と、新しい机、そんな新しいようなものばっかりの場所に娘は週に五回も通っているのだ。
毎朝集団登校の列に混じって通学路をついていく。最初の半月は校門の前で手をふって別れた。それからだんだんその手前で別れるようになり、(道の曲がってるところまで来てくれない?)(先生が立ってる交差点のところにする)(あのさ、ふるーいおうちがあるでしょ。その前まででいいよ)。
子供たち。いろんな色のランドセル。光る靴。校庭は多分今まででいちばん広く大きく、わたしが通っていた小学校とよく似た朝令台があった(緑色の塗装がほとんど剥がれて、土みたいな鉄の色が露わになっているところも)。
あちらこちらに住んで、いつもどこかせいせいしながら離れるから、前に住んだ場所に寄ると不思議な気持ちになる。記憶のなかに来てしまったような、軽いめまいのような感じ。懐かしくて、後ろめたいような感じ。誰になのかわからないけれど、小さい、取るに足らない嘘をつき続けている感じ。
自分が生きて生活してることは、不思議で、とてもへんなことだと思う。ご飯を作ったり、お風呂を磨いたりして、何食わぬ顔で生きてることとか、悩んだり苦しんだりすること、笑ったり愛したりすることも、とてもへんな感じがする。その中で、土に触ったり、眠った娘の足の温度とか、風が吹くこと、そういういいものの近くでは、それでも良いのかと思う。腑に落ちることがある。でもそれは街を移り住むようにぶつ切りの時間で、すぐにまた次の気持が現れて、消えてく。