水の歌
塔野夏子

その水に出逢うと
わたしはやわらかい小さな舟

その水面をゆく舟でもあり
その水中をゆく舟でもあり

その水の波を 凪をゆく
瀬をゆき とろをゆく
ただその水を感触しながらゆく

水は水として
けれどさながら風であり森であり
空であり 炎でさえあって

けれど苦い混濁
重い影の底から
星に焦がれ
水は呻き

そして歌う
自らの中を漂う
数多の言葉を
水の中ゆえ
さだかには見定められず
消えてはあらわれ
あらわれては消え

(水をゆく
 わたしというやわらかい舟も
 ここではかたちのさだまらぬ
 言葉なのかもしれず)

浮かび
   沈み
浮かび
   沈み
この水をゆくほどに
この水の歌を
光を 傷を感触するほどに
憧憬する
渇望する
この水の深奥を
この水の最涯を

(こうして強くこいねがっているのは
 わたし それとも水)

けれど
終わる
   すべてはやがて終わる
      けれど水はまたかたちを変えて
         いつかどこかで

出逢う

出逢うと
わたしはやわらかい小さな舟



自由詩 水の歌 Copyright 塔野夏子 2022-11-15 12:10:22
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