パスワードに
好きなものを設定すると
どれだったか忘れてしまうので
忘れたくても忘れられない
嫌な人の名前を設定した

おまえなんて大嫌いだと
キーボードで打ちのめす
いじめたあいつ
隣の変人
昔の恋人

嫌な人が大切なパスワードって
悪趣味だよなと自分を責めていたが
毎日たたき斬っているうち
憎しみの角が削り取れてきて
存在を忘れた
ただのパスワードになった

あの人はずっとわたしに
忘れないで欲しかっただけだと
気がついた