元号の星より
本田憲嵩

土曜日 雨のち晴れ。現場にて。
そういえば、昔は土曜日も両親は仕事で休日は日曜日しかなかったな。小学校もたしかそうだった。半ドンではあったが。それにしてもどうしてぼくはこの令和になった今でも土曜日に出勤しているのだろう。二週連続で、しかも半ドンでもなく。


子供とその祖父が、ほとんどが欠損してできあがってしまった虹の橋のひとかけらに、昭和の傘をさしながら 渡ってゆく。もうとっくに通り雨は上がっており、その空にはよくありがちな水彩の色彩があざやかに広がっている。その懐かしいカタツムリについての会話とそのようなおだやかな歩行の速度からは、ここちよく頭髪と体毛を毛羽立たせるようなさわやかな風が吹いてきて、けれどもふたりはそのさきにある白い雲のなかへとたちまちに消えていってしまった。その雲のすぐそばを令和の最新型のヒコーキが線を引くように通りすぎてゆく。ぼくのまわりには懐かしい昭和の赤トンボが古いヒコーキのように飛びまわっている。令和と昭和、いったいどちらの元号の星にぼくは今いるのだろう。飛行機はトンボの形態をルーツとして発明され飛行しているのか。はたまたトンボは飛行機の形を予見してその形態をとっていたのか。ぼくはいま判らないでいる。



自由詩 元号の星より Copyright 本田憲嵩 2022-10-26 21:40:01
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