記憶の奥/余りに早く亡くなった元義母へ
ひだかたけし

叫び、裂ける
記憶の奥に佇み
記憶の億を掴み

ただただ、わたしは畏怖する
ただただ、わたしは優しくなる

神々が踊る躍る
頂きの透明な湖面に
内底から、ぽつんとポツンと
涌出する、意味以前の声のヒビキ

わたしは震える、震えて
深みへ呑み込まれ、呑み込まれ

裂け目開き、陽は昇り
真紅の月明かり、照らす闇

剥がれ落ちるんだよ、
この小部屋の白壁から
溶解する時の断片が、
浮き出す実在の蠢きが、

冷え切る手のひら足裏
容赦なく降り注ぐ現の雨

  *

喜びはアッタ
悲しみはアッタ
困惑はアッタ
怒りはアッタ
いつも 透明な壁に 隔てられ
いつも 解離した現実を 眺め

娘が産まれた時、
諏訪の義母は電話口で
開口一番、言った
異常はないんだよね?
奇形ではないんだよね?

わたしにはわからない、
その発想が家系図が
血の遺伝の危惧の確認が
その切実な響きが声が

オマエ、先ず存在が、
新たに生まれた歓び、
在るはずだろう、
響き合う共感が、

お義母さん、共有したかったんだよ
薄い壁一枚隔てられた驚きを喜びを

それは単なる記憶像デハナイ情景デハナイ、
今にも立ち上がる
一つの違和、一つの瞬間、一つの光景

魂の奥底を探る
己という混沌に沈み
愛はアッタか?
他者を生きる
他者へ変容する
その瞬間が現実が
内面のリアルが

愛を感じたことが在るか?
アイヲ感じたことがアリマスカ?

散開する時の断片、夏は去り
この秋口にて再び秋雨に濡れ

ヴラマンクの野性
ヴラマンクの荒涼
表出された一光景

記憶の億を掬い、
魂の孤独に佇む、

全て、スベテ、投げ出し放擲し

  *

叫び、裂ける
記憶の奥に佇み
記憶の億を掴み

ただただ、わたしは畏怖する
ただただ、わたしは優しくなる

神々が踊る躍る
夢見の頂きの透明な湖面に

内底から、沸々と木霊し
涌出する、意味以前の声のヒビキ

遠い遠く絞り出される言葉、揺動し
言葉は声は言葉に声に溶け、到来し










U2『POP 』の残響の渦中にて


自由詩 記憶の奥/余りに早く亡くなった元義母へ Copyright ひだかたけし 2022-10-10 22:53:21
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